Interview _hirosato_Vol.3(全3回)

心地いい居場所を探して

THE BLUE Spirits インタビュー第1弾は画家の_hirosato_氏。
_hirosato_さんとは代々木八幡のカフェで開催された個展で出会ったのが始まりです。
緑が溢れる素敵な空間に、_hirosato_さんの青い絵がひときわ美しい光を放ち輝いていました。
インタビューシリーズ『青の琴線』、第1回目を飾っていただくにふさわしい、青のグラデーションが特徴的な「Womb」シリーズの絵を描く画家・_hirosato_さんにご登場いただきます。

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Wombシリーズは木の板に描いてますよね。最初から木の板に描こうと思っていたんですか?
油絵やさまざまな手法がある中で、ここに行き着いた理由は?

_hirosato_ そもそも僕自身が額なしが好きだったというのがあります。
額なしで飾りたい時に、キャンバスだと角がちょっと丸くなっちゃって、それが気に入らなかったんです。木のパネルだと、角がシャープになる。これならそのまま飾ってもかっこいいなと思って。それで木の板に描くことにしました。
何かこう、額装なしに広がりを持っていた方が良かったんです。
額なしで飾った時にパワーが出る方がいいと思って。そのつもりで描いてはいるんですけど、額は額でかっこいいと最近気づいてきて。

_hirosato_さんの絵を描く原動力は何ですか?
君はなぜ絵を描くか?と問われたら、何と答えますか?

_hirosato_ 最高の1枚を描くために、というのはあるんですけど、本当にそのまだ見ぬ一枚を探すためでしかないのかな、今は。
もちろん描いた絵でみんなの力になれたり、役立てたらというのは、常に持ってるんですけど。描いている時は気持ちいい場所を探していて。でも基本的に描いているときはしんどい作業でしかないし、ぶっちゃけ苦しい(笑)。だけど出来上がった時の気持ちよさは半端じゃないし、それが伝わったって思える時の喜びも半端じゃないですね。

この1枚というのが出来上がった時はすごく気持ちいいし楽しいんですけど、瞬間的にハードルが上がるので、1枚1枚ができた時にそれを超えられるわけじゃないので、そこが難しいですね。
それこそ、これが生まれた瞬間の気持ちよさを超えることって、なかなか難しいと思うんですよ。最初に自分のスタイルが見つかった時を超えるのって。
今は自分ができたと思った瞬間よりも、それを気に入ってくれて価値を見つけてくれた相手に対して、作品の想いが伝わった!と思った時が一番楽しいかもしれませんね。

2年前とかの僕だったら、一番嬉しい時は、やっぱり描いて完成する時だったなって思います。完成した時が純粋に嬉しい。でも今は想いが人に伝わった時に変わっていますね。

その想いというのは?

_hirosato_ この絵の、分かりやすい言葉でいうと癒しとか、居場所を探して、光に向かって、自分が10代の頃から神経症になって、苦しみの中からサーフィンと海と出会って、光を見出すとか、このプロセスがこもっているんですね。それがあるから、見た人にもそれが伝わるんだと思っていて。
居場所、あるがままでいられる場所であって、向こうにトンネルが繋がっていて抜ける感覚。それをお客さんが感じてくれる時。僕が描いたテーマがちゃんと伝わっている時ですね。

見てくれた人が、何か吸い込まれそう、とか、ぼーっとでできる、安心できる。そういう風に言ってくれる。興味のある方には、僕の今までのバックグラウンドとか、Wombという言葉の由来を説明します。けど、それを話す前から感じてくれている人が多いし、それを気に入ってくれて家に飾ってくれるというのは、心が震えますね。

お客様との交流で印象に残っているエピソードはありますか?

_hirosato_ 以前、病院に飾らせてもらったことがあったんです。茅ヶ崎の徳洲会病院のロビー、12mくらいの壁に2ヶ月くらい飾っていただきました。地元のおばあちゃんが、診察待ちの間にずっと眺めてくれて、気に入ってくれて。
「すごく心が安らいだ」と言って、お孫さんをわざわざ呼んで、LINEの読み込み方を教わりながらLINEでメッセージを送ってくれたり。その人は不安だし、痛みもあったけど、この絵を見て忘れることができました、と言ってくれて。そういう力になれているんだなって感じられたのが、すごく嬉しかったです。
ほかにも、この絵を見ていると自然と涙が溢れました、と言ってくれる人もいて。プライベートでつらいことがあったようなのですが、救われましたと言ってくれて。自分の絵が人々の暮らしの中で役立てるんだなって思って。

_hirosato_さんの青の琴線

_hirosato_さんが作品を生み出すインスピレーションは内側から湧いてくる?
あるいは何からインスピレーションを得ていますか

_hirosato_ 僕にとっては、海と旅がすごく大事。きれいなものとか、心地いい場所とか、自分の心が動くと思うので、その動いた感覚がすごく大事な手がかり。何かを絵にする時に、心が動くかどうかがすごく大事だと思っています。
ずっとサーフィンをやっていて、留学とかバックパッカーに行って、そういった感覚を溜め込んでいたわけですよ、ワクワクとか刺激とか。それをずっと絵に落とし込んでいる感じですね。今は、次のインスピレーションを探している最中です。

_hirosato_さんにとって「青」はどんな存在ですか

_hirosato_ 青は本当に居心地のいい色なんですよ。寄り添ってもらえる安心感があるので。ずっと青が好きなんです。究極の癒しだと思ってます。子どもの頃からずっと青が好きだったし。かっこ良さももちろんあるんですけど、純粋にかっこいい色というよりは、本当に癒しを感じたりしてたんですよ。小さい頃から。
昔から自然と好きな色だったし、兄貴がどっちかって言ったら活発で外向的な人で、赤とかオレンジとかが好きで、比較的内向型の僕は自然と青と緑だったんですよ。さっきのサーフィンの話とかも全部通じてくるものだとは思うんですけどね。

私は_hirosato_さんの青から、すごくピュアなものを感じるというか。そういうピュアなものが絵にも出ているんじゃないかなと思って。作品には_hirosato_さんご自身がすべて出ますよね。

_hirosato_ そうなんですよ。自分の生きざまがやっぱり出るんだなと常々感じていて。
自分の感じてきたものとか、生きざまがあるから、シンプルな構造だし、青のグラデーションなんだけど、違うパワーになっているんだろうなって。
10代、強迫性障害で青春っぽいこともできなかったし、20代もしんどかったですけど、それが絵にとっていい効果だったんだなって。
強迫性障害は、常に不安を感じちゃうんです。鍵閉まってるかな?今汚いもの触っちゃったんじゃないかな?病気じゃないかな?とか、いろんな不安が頭をよぎってパニックになって、身動き取れなくなっちゃうんですよ。
それだけ苦しい状況の中で、気持ちいい海、という場所を見つけて、その負の感情がそこで洗い流されて、あの感覚を味わえたから、この気持ちよさを描けるんだと思いますね。ただ、海が楽しい、きれい、とかだったら、表現できないものだったと思います。
強迫性障害になったのは片親になってしまって、母も余裕がないので、しっかりとしたわがままを言って怒られる、みたいな、そういう意思疎通がなかったんです。そこに居場所を感じられなかったのです。そんな環境もちょっと恨んだ時期がありましたけど、そんなことも含めて、今ここに繋がってるんだと思えるようになりましたね。

だからこそ_hirosato_さんにしか描けない世界観がありますよね。

_hirosato_ そう信じてます。小手先で、きれいに描こうとしたら、手が止まっちゃう気がして。
さっき描くときの手がかりといった気持ちよさ一つ一つがすごく大事になります。それを感じていくことが作品に影響する気がしているんですよね。このWombのシリーズが一番の自分らしさかなって思います。

今後、どんな未来を今目指していますか

_hirosato_ Wombのシリーズは2年間ずっとやってきたから、今はもう少し幅を広げたいというのもありますね。
同じものばかりを描いてると、そのものの良さも分からなくなりそうだから。
技術的に書けるようになったがゆえに、ちょっと感覚の方が置いてきぼりになっている気もしています。
それもあって、違うものにトライして、またこれの良さを振り返れるようになりたいな、っていうのもある。
作品として、今描いているものが最高なのか、もう一歩先に行けるのか。もっと先に行けるなら、もっともっとブラッシュアップしたい。それをどこまで突き詰められるか。でも常に自分の表現したいままに描いていきたいですね

アトリエでは、数々の絵と共に、たくさんの植物たちが迎えてくれました。
最後に植物のことを聞いてみました。

_hirosato_ 植物は、最初はこのアトリエで、SNS用の写真を撮っていきたい、というところから知人にもらいました。
インテリア映えする植物でもあればいいな、というのが第一歩です。だけど、今や、植物がないアトリエなんて想像できないですね。植物も居場所を与えてくれているから、好きなんだと思うんです。そのうち植物を描くかもしれませんね。

居場所なんだね、_hirosato_さんのキーワードは。

_hirosato_ たぶん。今のところ居場所を探してる。安心できる場所って言ったらいいのかな。
居場所がなかったというのが今となっては大きくプラスに影響してるのかもしれないですね。放浪癖があったんですよ。小学校の時に。チャリでふらふらどこか知らない場所に行くのが好きで。結構怒られるぐらい遠くまで行ってたみたいなんです。それぐらい外が好きだったのは、たぶん家にいるのが居心地悪かったんだと思うんですよね。でも今は海だったり、この植物たちが居場所を作ってくれているんです。

End

_hirosato_ 
画家

海との触れ合いで強迫性障害を寛解した経験から、自然が与えてくれるエネルギーと受容性を探求し表現する抽象画家。
青山学院大学心理学科卒業後、ジュエリーメーカー勤務。
30歳目前で会社を退職後、オーストラリア留学、ニュージーランドでのバックパッカー生活でアートと出会い、独学で絵を描き始める。
2021年から画家として東京・湘南を拠点に活動している。

=主な活動経歴=
2019年
第49回純展 / 入選
2020年
グランデュオ立川 / ポップアップ出店
2021年
砂漠の水プロジェクト / 出展
2022年 茅ヶ崎徳洲会病院 / 個展
オリエンタルバーIGAO / 個展
2023年 茅ヶ崎徳洲会病院 / 個展
Gallery & Cafe Kuko / 個展
第42回横浜開港祭 / マリンアート担当 新宿伊勢丹90周年企画 / 参加