Interview _hirosato_Vol.2(全3回)

心地いい居場所を探して

THE BLUE Spirits インタビュー第1弾は画家の_hirosato_氏。
_hirosato_さんとは代々木八幡のカフェで開催された個展で出会ったのが始まりです。
緑が溢れる素敵な空間に、_hirosato_さんの青い絵がひときわ美しい光を放ち輝いていました。
インタビューシリーズ『青の琴線』、第1回目を飾っていただくにふさわしい、青のグラデーションが特徴的な「Womb」シリーズの絵を描く画家・_hirosato_さんに3回にわたり、語っていただきます。

Vol.1はこちら

光に向かってトンネルを潜っていく景色

「Womb」
海に包まれる感覚
それは母の胎内と同じ感覚
あるがままの姿を受け入れてくれる場所で
安心と自信を得て
自らの行く先に羽ばたいていく
誰もが持っている記憶の中の海で
誰もが自分自身の居場所を感じられますように

_hirosato_さんの代表的シリーズは「Womb」という、母胎という意味のタイトルシリーズですよね。最初から意図的に海をイメージして描いていたのですか。

_hirosato_ 海を描こうと思って描いたわけではないんです。
でもサーフィンをやりながら、海での気持ちよさっていうのは体感していたし、蓄積してきていたと思います。

サーフィンはいつから始めたのですか?

_hirosato_ 24歳ですね。12年前です。海の中に包まれている心地よさとか、波に調和している時の気持ちよさとか、安心感というのか。何かあってもまたサーフィンしに海に来れば大丈夫だっていう安心ですね。すごく心が満たされている感覚があって、すべての休みをサーフィンに注ぐハマりっぷりだったんですね。平日も早朝に海に行って、会社に遅刻しそうになったり。
それくらい海の気持ち良さに浸っていたんです。無意識で海の気持ち良さを表現していたのかもしれませんね。描いている時は、そんなこと全然考えていなかったですけど。

出来上がってタイトルをつけるときに「Womb」になったのですか?

_hirosato_ タイトルも最初はWombじゃなかったんですよ。ちゃんとしたタイトルがなくて。
ただ単純に自分が心地いい場所を描いていて、見に来てくれた人と会話しながら、なんで自分がこれを描いたのか、なんでこれを気持ちいいと思っているのかを、ちょっとずつちょっとずつ深堀していって。1年半ぐらい経った時に、自分があるがままでいられる場所、大事な海で自信が培われるわけなんですけど、安心感を得ることで自信がつく、というプロセスが、赤ちゃんがお腹の中で感じるのと同じ感覚ということを何かで目にして、なるほどと思って。海水のミネラル分と、羊水のミネラル分はほぼ同じっていうし、母なる海ともいうし。
赤ちゃんが生まれてくる時に見る景色がこういう光に向かってトンネルを潜っていくという景色だという。生まれる前の記憶がある子たちが言うらしいです。その辺も繋がって。
さらに言うと、自己肯定感が弱かったところがあるんですけど、それは家庭環境の関係で、わがままが言えないとか、自分が安心してあるがままでいられる場所がなかったので自信がなかったりしたと思うんですね。その結果、強迫性障害という神経症を患って、10代はなかなか真っ当な生活を送れていなかったんです。

サーフィンで海と出会った時に、そこがすごく良くなったんです。何か疑似体験してる。母親に求めていたあるがままにいさせてもらえる安心感みたいな。海に包まれることで補っていたのかなと。そこで自信が湧いてきて、自分のやりたいことに挑戦していく気持ちとか、それこそバックパッカー留学なんていうか、かつての自分では考えられないことにも挑戦していって。それを全部ひっくるめて、この絵を通して、安心できる場所を描いて、これを見ながらちょっと心を満たしていって、自分の行きたい方向に前向きに進んでいけるような気持ちが湧いてきたら、という思いで描いているんだなということに行き着いた感じです。
10代で神経症を発症してから、ずっと苦しくて、それを救ってくれたのがサーフィンなんです。サーフィンが、包んでくれる安心感とか、帰る場所を与えてくれたというか。

サーフィンを始めようと思ったそもそものきっかけは?

_hirosato_ 純粋に新しいことをしたかったし、モテたかった(笑)。
24歳で社会人1年目だったんです。会社と家の往復でしんどい、毎日同じ生活で、何か新しいことをしたい、夏間近だし、24歳男だとモテたくなりますよね。それで思い立って体験スクールに参加して、波に乗った瞬間に無重力感を感じたんです。
板を押されて立った瞬間にすごいふわふわした無重力の中で、すごいスピードで海に進んでいくのが快感でしかなかった。そこからどっぷりハマって、朝9時すぎには板のレンタルに行って、日が暮れるまで、一人で、どんなに波が小さくても、ずーっとやってましたね。
ぜんぜんちっちゃい波で誰も乗らないだろ、っていう波でも、大きなサーフボードを借りて、日が暮れるまでやってましたね。楽しくて、夢中でした。
ずっと波に乗って、シューっと行ったら戻って、シューっと行ったらまた戻って。それを8〜9時間ずっと繰り返しやっていたわけですよ

休みなく?

_hirosato_ 昼飯とか水を買いに行く以外はほとんど。
海から上がってシャワーを浴びて、その瞬間に何かアドレナリンが切れるのか、ふらふらで動けなくなるんです。立てないというか。
海の近くに親戚の別荘みたいなところがあるので泊まらせてもらって、そこから出勤したり。ヘロヘロ、へとへと。でも楽しいみたいな。
波に向かっていっても、ずっと受け入れてくれているのがまた良かったんですね。
そこから徐々にモテたいで始めたのが、楽しいに変わって。
1〜2ヶ月すると、まっすぐしか滑れなかったのに、ちょっと横に滑れるようになるんですよ。波の斜面が見える方向に進めるようになるんです。その瞬間に自然と一体化した気持ちになって。
なんだここは、みたいな。目の前で波がこう盛り上がってくるのをずっと見ている。たぶん数秒だと思うんですけど、永遠のような感覚で。そこでなんか一番安心感というか、あ、ここに居ればいいんだって思わせてもらった感じがしますね。

それは波と一体感になったという感覚を、体感として感じていたということですよね

_hirosato_ そうです。自然と笑顔になるし、それまで神経症を持っていたので、何かちょっとしたこと、汚いとか不安とか、すごいいろんなことが、頭の片隅にあるんですけど、海にいる間だけは何もなくなるんです。だから何かあってもここに帰ってくればいいと思って。
ちょっと家庭が複雑な時期が長かったので、家に居場所を感じたことがなかったんです。家に帰りたいとか、家に帰ってほっとするっていう感覚がなさすぎて、夜まで外で遊んで過ごしていたんです。寝に帰るけど、早く外に出たいというか。昼ぐらいまで家にいると気持ち悪くなっちゃってたんで。よっぽど家が嫌だったんだろうなって。
波に乗っていた時に、居場所ってこういう感じかって、波と調和した瞬間に感じてて。その感覚がすごく絵に出ている気がします。「居場所」というのをすごく描きたいなと思って。

青い絵になったのは、自然と海を連想していたからですか?

_hirosato_ 青以外の色をつかってないですね。エメラルドグリーンのような色ぐらいで。
もとから兄が赤とやオレンジ系の色で、自分は青とか緑っていう幼少期からの好みの違いもあったし、何かと落ち着くのが青だったので。なので自然とまずは青と思って描いてましたね。

グラデーションで、いろんな青がありますよね。

_hirosato_ このクジラが一番最初の絵なんです。今の絵を描くは前は、絵の具も買ってないポスカの時期。この背景の青もポスカなんですよ。

_hirosato_ ポスカは確か3色ブルーがあるんです。そのインクを出して、それを伸ばして、乾かないうちに、また違う青を出して伸ばして混ぜて、それであの青いグラデーションを出して作ったんです。
乾いたら上にポスカの白でクジラを描いて、曼荼羅で太陽を表現して。その時は青で海を描こうとしたのかもしれないですね。

なぜ曼荼羅なのでしょう

_hirosato_ 曼荼羅は心理学にもあるんですよ。ユング自身が心を患った時に、絵を描いて癒される。ひたすらに絵を描いた時があるんです。その時に描いていた絵が、中心から広がる構造のああいうタイプの模様だったらしくて、なんでこんな構図の絵ばっかり描いてるんだろうって調べていたら、東洋に曼荼羅という仏教の蜜画があると知って。同じ構図だからというので英語で曼荼羅と名付けたらしいです。

僕もメンタル病んでたので、曼荼羅アートを描くというのは、すごく自然の流れだったのかもしれませんね。描くことで癒しを求めてたのかなって。今思えばですけど。
あとはヒッピーのファッションスタイルとかライフスタイルはすごい気になっていて、ヒッピーの人たちが曼荼羅のような精神性の高いアートと親和性があるんですよね。ボヘミアンスタイルだったり。ファッションとしての憧れもあったのかなと思います。

Vol.3に続く・・・

_hirosato_ 
画家

海との触れ合いで強迫性障害を寛解した経験から、自然が与えてくれるエネルギーと受容性を探求し表現する抽象画家。
青山学院大学心理学科卒業後、ジュエリーメーカー勤務。
30歳目前で会社を退職後、オーストラリア留学、ニュージーランドでのバックパッカー生活でアートと出会い、独学で絵を描き始める。
2021年から画家として東京・湘南を拠点に活動している。

=主な活動経歴=
2019年
第49回純展 / 入選
2020年
グランデュオ立川 / ポップアップ出店
2021年
砂漠の水プロジェクト / 出展
2022年 茅ヶ崎徳洲会病院 / 個展
オリエンタルバーIGAO / 個展
2023年 茅ヶ崎徳洲会病院 / 個展
Gallery & Cafe Kuko / 個展
第42回横浜開港祭 / マリンアート担当 新宿伊勢丹90周年企画 / 参加