青の歴史とは?
青はいつから存在したのか?
青という色は、自然界に広く存在するものの、古代の人類にとっては非常に特別な色でした。
他の色に比べて自然界の青い顔料は少なく、青を表現する方法も限られていたため、多くの古代文明では「青」という概念そのものが存在しなかったと言われています。
古代エジプトやメソポタミア文明では、青色の顔料や染料が発展し、特別な意味を持つようになりました。
私たちは日常的に「青」という色を目にしています。
青い空、青い海、青い洋服——現代では当たり前のように存在するこの色だが、歴史をさかのぼると「青」は特別な色だったことがわかります。
青色の顔料や染料は、他の色と比べて歴史的に入手が難しく、高価なものとされてきた。中世ヨーロッパの絵画では、青色の顔料が黄金よりも高価だった時代もあったほどです。
では、青はいつから存在し、どのように人類の歴史に関わってきたのでしょうか?
ここでは、自然界における青の起源から、文明の中でどのように青が認識され、発展してきたのかを探っていきます。

文化ごとに異なる「青」の意味
青という色が持つ意味は、文化によって異なります。
・古代エジプト:青は神聖さや不死の象徴
・日本:藍染が発展し、庶民の生活に根付く
・西洋(中世ヨーロッパ):聖母マリアの象徴として神聖な色とされる
・現代:信頼・誠実・冷静さを象徴し、企業ロゴにも多く使われる
国ごとに異なる「青」の意味
- 日本:
- 日本では、青は若さ、未熟さ、青春を象徴することがあります。「青二才」という言葉があるように、経験の浅い人を指す場合があります。
- また、青は誠実さや冷静さも表します。
- 昔の日本では、緑色の野菜を「青物」と呼ぶように、緑と青の区別が曖昧でした。
- 中国:
- 中国では、青は木や春の色であり、成長や生命力を象徴します。
- 道教では、青は不死の色とされています。
- また、青は悲しみや憂鬱を表すこともあります。
- 西洋:
- 西洋では、青は信頼、安定、誠実さを象徴することが多く、ビジネスシーンで好まれる色です。
- 「ブルーマンデー」という言葉があるように、憂鬱な気分を表すこともあります。
- また、青は高貴な色として、王族や宗教的な意味合いを持つこともあります。
- 中東:
- 中東では、青は幸運や保護の色とされています。
- 「ナザール・ボンジュウ」と呼ばれる青いお守りは、邪視から身を守ると信じられています。
- イスラム教では青は貴重な色としてモスクなどの建築物にも多く使われています。
- アフリカ:
- アフリカの一部の文化では、青は神聖な色とされています。
- また、青は死や悲しみを象徴することもあります。
このように、青は文化によって様々な意味を持ちます。
色の意味を知ることは、異文化理解を深める上で役立つでしょう。
青の顔料の発展と技術革新
青い色を作り出すために、歴史を通じてさまざまな顔料や染料が開発されました。
最も古い青色顔料は「エジプシャンブルー」であり、その後「ウルトラマリン」や「プルシアンブルー」が登場し、青の表現の幅が広がりました。

古代における青の意味と利用
古代エジプトとラピスラズリ
青の歴史を語る上で欠かせないのが、古代エジプトのラピスラズリです。
この貴重な鉱石は、装飾品や壁画に使われ、神聖な色として崇められました。
ラピスラズリは、その深く鮮やかな青色から、古代エジプトで非常に貴重な宝石として珍重されました。
アフガニスタンから運ばれたラピスラズリは、金と並ぶ高価な宝飾品として、王族や神官のみが使用を許されたようです。ツタンカーメン王の黄金のマスクにも、ラピスラズリが使用されており、その美しさと価値を現代に伝えています。
また、ラピスラズリは、顔料としても使用され、壁画や彫刻の彩色に用いられました。特に、神々の肌や髪、衣装などに使用され、神聖さを表現するために欠かせないものでした。ラピスラズリは、スカラベ(フンコロガシ)の装飾にも使われ、スカラベは太陽神の化身として古代エジプトで崇拝されていました。

ギリシャ・ローマ時代の青色染料
ギリシャ・ローマ時代には、青色の衣服は希少であり、特権階級が着用することが多かったです。
また、この時代にはインディゴ(藍染)が知られており、交易品としても重要視されていました。
インディゴは非常に高価であり、主に富裕層や貴族階級によって使用されていました。
インディゴの原料となるアイ(藍)は、主にインドから輸入されており、その貿易ルートを通じてギリシャ・ローマに運ばれていました。
当時のインディゴ染色は、高度な技術を要し、専門の染色職人がいました。インディゴ染めされた衣類は、その美しい青色と耐久性から、高い評価を受けていました。
インディゴ染料の最大の特徴は、その独特な青色と、染色後の色の変化です。インディゴ染めされた布は、使い込むほどに色落ちし、独特の風合いが現れます。この特性が、現代のデニム製品などに受け継がれています。
日本における藍染と青の文化
日本では、古くから藍染が発展し、江戸時代には「ジャパンブルー」として海外にも知られるほど普及しました。
藍染は防虫効果もあり、実用性と美しさを兼ね備えた染色技術として発展しました。
ジャパンブルーとは、日本の伝統的な藍染によって生み出される、深く美しい藍色の総称です。海外では「Japanese Indigo」とも呼ばれています。明治時代に来日したイギリスの化学者ロバート・ウィリアム・アトキンソンが、日本の藍染の美しさを「ジャパンブルー」と名付けたと言われています。

古代における青の意味と利用
キリスト教美術における青の重要性
中世ヨーロッパでは、青は神聖な色とされ、特に聖母マリアの衣服に用いられることが多くなりました。
この背景には、高価な「ウルトラマリン」という顔料の影響があります。
中世ヨーロッパの絵画において、「ウルトラマリン」は聖母マリアの衣服を彩る色として頻繁に使用されました。
その高貴な青色は、聖母マリアの純粋さ、神聖さ、そして王妃としての威厳を象徴していました。
ウルトラマリンは非常に高価であったため、聖母マリアの衣服に惜しみなく使用することは、画家たちの敬意と信仰心の表れでもありました。
ルネサンス期の画家たちは、聖母マリアの衣服にウルトラマリンを使用することに特にこだわり、その美しい青色を最大限に引き出すために、様々な技法を駆使しました。
ウルトラマリンは、聖母マリアの象徴として、多くの宗教画において重要な役割を果たしてきました。

フレスコ画やステンドグラスの青
教会のステンドグラスやフレスコ画では、青の顔料が豊富に使われました。
特に「Royal Blue」と呼ばれる特別な青色が、王権を象徴する色として広まりました。
「Royal Blue」は、ヨーロッパの王家が代々愛用してきた、深く鮮やかな青色のことを指します。この色は、王家の権威と威厳を象徴する特別な色として、歴史の中で重要な役割を果たしてきました。
ロイヤルブルーは、深く鮮やかな青色で、特にイギリス王室の公式カラーとして知られています。
この色は、高貴さ、威厳、信頼感などを象徴し、ファッション、デザイン、アートなど幅広い分野で人気があります。
高価な顔料「ウルトラマリン」とその価値
ウルトラマリンはラピスラズリから作られる非常に高価な顔料で、ルネサンス期の画家たちにとっては「黄金と同じ価値」とされました。
このため、青色を使うことは絵画の中でも特別な意味を持ちました。

近代・現代の青の進化
科学技術の進歩と新しい青色顔料
18世紀には「プルシアンブルー」、19世紀には「コバルトブルー」、さらに21世紀には「世界一青い色」と言われる「YInMnブルー」が発見されました。これにより、青の表現は大きく進化しました。
YInMnブルー(インミン・ブルー)は、2009年にアメリカのオレゴン州立大学の研究チームによって偶然発見された、非常に鮮やかで耐久性の高い青色の顔料です。その名の由来は、構成元素であるイットリウム(Y)、インジウム(In)、マンガン(Mn)から来ています。従来よりも鮮やかで耐久性の高い青色塗料として、建築物や自動車、美術作品などに使用されます。
企業ブランドやデザインにおける青の利用
現代では、多くの企業ロゴやウェブデザインに青が使用されています。
例えば、銀行系のロゴが青なのは、青が「信頼・誠実」を象徴する色だからです。
企業ブランドやデザインにおける「青」の利用は、その色の持つ心理的効果と象徴性から、非常に広く効果的に行われています。
青が持つ心理的効果と象徴性
- 信頼と安定:
- 青は、信頼、誠実さ、安定感といったイメージを連想させます。そのため、金融機関やIT企業など、信頼性が重要な企業でよく使用されます。
- 知性とプロフェッショナリズム:
- 青は、知性や冷静さ、プロフェッショナルな印象を与えるため、専門性の高い企業やサービスに適しています。
- 安心感と平和:
- 青は、安心感や平和、穏やかさといったイメージも持ち合わせており、医療機関や公共機関など、安心感を提供する企業や組織にも適しています。
- 先進性と革新性:
- 青は、清潔感があり、未来的なイメージを持つため、テクノロジー関連の企業にもよく使用されます。
企業ブランドにおける青の利用例
- 金融機関:
- 多くの銀行や保険会社が、信頼感と安定感を表現するために青を基調としたロゴやウェブサイトを使用しています。
- テクノロジー企業:
- Facebook、Twitter、IBMなど、多くのテクノロジー企業が、革新性と信頼性を表現するために青を使用しています。
- 航空会社:
- 多くの航空会社が、空と海を連想させる青を使用し、安全性と信頼性をアピールしています。例:全日空、日本航空。
- 医療機関:
- 病院や製薬会社が、安心感と信頼感を表現するために青を使用しています。
青は、企業ブランドやデザインにおいて、非常に汎用性の高い色です。その心理的効果と象徴性を理解し、適切に活用することで、ブランドイメージの向上やデザインの効果を高めることができます。
現代アートにおける青の表現
ピカソの「青の時代」や、イブ・クラインの「クライン・ブルー」など、青は芸術の世界でも重要な役割を果たし続けています。

イブ・クラインはフランス・ニース生まれ。ニースの海岸で見た空の色であるとともに、宇宙の根源的なエネルギーに通ずる色である「青」を理想とし、オリジナルのブルーを染料を作り出します。それが「インターナショナル・クライン・ブルー」。1957年にミラノで開催された個展で、オリジナルのブルーの染料を使用した絵画作品群を発表し、一躍脚光を浴びました。
これからの「青」の可能性
古代から現代に至るまで、青は常に特別な色として扱われてきました。
企業ロゴ、アート、ファッション、デザインなど、現代社会のあらゆる場面で青が活躍しています。
科学技術の進歩により、今後も新たな青色の発見や利用が進むことが期待されています。